市場価格に影響を与える価格決定力とは

メーカー企業が製品の希望小売価格を変更するとどのようなことが起こるでしょうか。希望小売価格を安くした場合に、店頭価格も安くなるのでしょうか、それとも店頭価格に変更はないのでしょうか。もしくはメーカー企業が希望小売価格を上げた場合、店頭価格も上がるのでしょうか、それともしばらくは店頭価格に変更はないのでしょうか。価格変更は卸売業者や小売業者との関係性に影響を与えるのでしょうか、それとも消費者の需要に影響があるのでしょうか。これらの質問に対する答えを知ることは、御社が店頭価格にどのくらいの影響力を持っているのかを知ることに繋がります。

プライシングへの影響力を把握する

企業が希望小売価格を変更した時に、店頭価格に与える影響力を「価格決定力(プライシングパワー)」と言います。たとえば、メーカー企業が希望小売価格を100円上げたとします。その時、この価格上昇がサプライチェーン全体に影響を与え、最終的な小売価格も上昇しているようであれば、このメーカー企業は高い価格決定力を持っているということになります。

逆に、あるメーカー企業が販売拡大のために希望小売価格を100円下げたとします。その時、店頭小売価格も下がっているのでしょうか。もし、卸業者が卸価格を下げずに店頭小売価格に変更がない場合、このメーカー企業の価格決定力は弱いということになります。

メーカー企業にとって、どのくらいの価格決定力があるのかを把握し、理解することは非常に重要です。価格決定力が強い場合、消費者の需要に合わせて自社の決断で価格を調整することができます。同じ数量の製品をより高い価格で販売して、売上を増やすことができるかもしれませんし、より多くの製品を安価な価格で販売して、市場シェアを拡大できるかもしれません。つまり、価格決定力が強いということは、価格設定の自由度が高いと言いかえることができます。

では、ここからいくつか例を見てみましょう。:

価格決定力が強い企業の例

上記の図は価格決定力の強い企業の例です。メーカー企業が2018年第26週と2019年の第14週目に希望小売価格(図の点線)を上げた時、販売価格(実線)も上がっています。店頭価格と希望小売価格が同じ上げ幅でなくとも、2つの金額の間には相関関係があり、ほぼ同時期に店頭価格も上がっています。なお、メーカーが希望小売価格を変更しても、店頭価格が2~3週間ほど変わらない場合もありますが、このズレは、価格変更の伝達や、卸売業者の価格変更への対応期間であったり、在庫であったり、サプライチェーンの対応速度によって変わります。

価格決定力が弱い企業の例

この例は、価格決定力が弱いメーカー企業を表しています。メーカーが2018年第38週に希望小売価格を変更しても、店頭価格に大きな変動はありません。希望小売価格を変更してしばらく経っても店頭価格は変わっておらず、この価格差の幅が狭くなっています。つまり、最終価格に変更がなく、仕入れ価格だけが下がっていることから、サプライチェーン(卸業者や小売業者)が差額を自社の収益にしていることがわかります。

また、逆の場合もあり、メーカーが希望小売価格を上げた時に、卸業者や小売店が上昇分の金額を吸収して、最終価格を変えない場合もあります。こうすることで消費者の需要を維持することができるのですが、このままだと利益が出ないため、卸売業者や小売業者は御社との取引を止めて、別のメーカーの製品を取り扱うようになるかもしれません。

上の図で興味深いのは、2016年の1年間と2017年の第28週に見られる店頭価格の変化です。これらの期間ではメーカーの希望小売価格は変わっていませんが、店頭価格が大きく変動しています。この理由は2つ考えられます。一つは、メーカーがリベートや販促費を通じて何らかのプロモーションを行っていた可能性です。このような場合、価格決定力を把握するためには、希望小売価格と店頭価格だけではなく、原価や販促費用までを考慮する必要があります。2つ目は、チャネルパートナー側で独自のプロモーションを実施している可能性です。卸売業者や小売業者側で在庫を抱えている場合、在庫を処分するために安売りをしたのかもしれません。卸売業者や小売業者が、メーカー企業の協力なしにプロモーションを行うのは、両社の関係に何かしらのが危機が迫っているのを示唆している可能性があります。

価格決定力を知ることで、自社が市場価格に与える影響力を知ることができます。原価の高騰が叫ばれる今、御社の価格決定力を確認してみませんか。