プライシングのための最適なアルゴリズム

プライシングの専門業者は、今までプライシング(価格設定)のためのアルゴリズムの競争を行っていました。一方で、多くの企業はプライシングのためにリソースを投入し、サードパーティのソフトウェアではなく、独自の分析ツールの開発に投資していました。

現在、ストレージ、大規模なデータベース、並列コンピューティングによる分析アルゴリズムの高速処理など、テクノロジーが急速に発展しており、様々なソフトウェア企業が、クラウドプラットフォームや高性能な分析ライブラリを提供しています。これに伴い、プライシング業界にディスラプション(破壊的創造)が起こっています。新興の業者は、独自の分析ツールを一から開発するのではなく、こうしたプラットフォームとその関連ライブラリを利用して、複数のアルゴリズムの同時実行と自動チューニングを行い、驚くほどの粒度でその効果を分析できるサービスを提供しています。そのため、ユーザーはアルゴリズムではなく、最良の結果を得ることを重視するようになっています。

この状況をより正確に理解するために、データサイエンスと機械学習のコミュニティであるKaggle(カグル)で行われたコンペの例を見てみましょう。Kaggleでは、企業や政府がコミュニティにいるデータサイエンティストやエンジニアに課題を出し、優秀な分析モデルを買い取るコンペを行っています。このコンペで有名な事例に、Zillowが実施したHome Value Predictionがあります。Zillowは、このコンペで、住宅の価値を推定できる信頼性の高いアルゴリズムに100万ドル以上の賞金を出しました。

では、このアルゴリズムによって、家の売価を決定するという課題は解決したのでしょうか?実際には、ケースバイケースというのが実情です。家を売る場合、より多くの情報が必要になります。例えば、あなたがラスベガスに家を所有していて、転勤のためにシカゴに行くことになったとします。今の家を売って、新しい家を買うための期間を9ヶ月と決めたとします。この時、家を売ったお金で新しい家を買うためには、半年で家を売る必要があります。確実に売るために、最初の3ヶ月は自分の希望する値段で売り出してもいいですが、その金額で売れない場合は確実に売れる金額まで値段を下げていく必要があります。

実は価格計画(プライスプランニング)とは、この時の販売価格の変更プロセスのことを指します。ZillowのHome Value Predictionは有用な示唆を与えてくれるかもしれません。しかし、この時、あなたが本当に必要なのは、残された3ヶ月で家が売れる価格を予測するアルゴリズムなのです。Zillowの予測では、その要件を満たすことはできないでしょう。

プライシングソリューションの世界では、常に最良のパフォーマンスを得られるような単一のアルゴリズムは存在せず、状況に応じて最適なアルゴリズムの組み合わせを見つけることの方が重要になっています。この組み合わせを見つけるためには、明確な販売戦略を持ち、その戦略に基づいた分析プロセスが重要になります。そのため、価格(割引契約やリベートプログラムを含む)の設定や管理をする担当者はアルゴリズムの専門家である必要はありませんが、この販売戦略を明確に理解している必要があります。そして、KPI(目標となる指標)を定義してデータを収集、モニタリングし、継続的に販売戦略を評価し、プライシング戦略を改善していくことになります。このプロセスを確立できれば、経験豊富なデータサイエンスチームが、高度な分析ライブラリを使って、販売戦略をさらに洗練化できるようになるでしょう。

次の記事では、データサイエンスを活用して販売戦略を強化した事例についてご紹介します。

参照
https://www.kaggle.com/c/zillow-prize-1#description