価格管理を担当する田中さんは、ある日の午後、必死でスプレッドシートと格闘していました。すべては、新任のCFOが1週間前に長期的な収益性を重視する施策を発表したことから始まりました。CFOがすべての取引の収益性を確認したいと言い出し、採算の取れない取引をすべて見直すことになったのです。今までは変動費だけを見て採算性を評価していましたが、この一言のおかげであらゆるコストを反映しなければならなくなったのです。
確かにCFOの要望は合理的であり、田中さんもすぐに対応できると思っていました。固定費を按分して、その金額を取引金額から差し引き、収益性を報告するだけで良いと考えたからです。しかしながら、実際にそれをしてみると、いくつかの課題に直面しました。
例えば主力製品の「W」について、固定費を計上して総収益を見ると利益が出ていましたし、この製品の利益率は会社の営業利益率と同程度になっていました。しかしながら、取引先別に見てみると、採算性の悪い取引や採算の取れない取引が行われていることがわかりました。CFOはこれらの契約を解除する方針です。しかしながら、それらの取引をやめたと仮定して、全体の収益を見直してみると、他の契約の収益がマイナスになったのです。その理由は、この製品「W」の生産設備や保管施設が製品「W」のためだけのものであり、不採算の取引をなくしたとしても、この生産設備の固定費が変わらずに発生し、按分される固定費が増えるためです。この事実を知ったときに、田中さんは、CFOの考えるコストプラス法で全てを判断することが正しいわけではない、と思ったのでした。
製品「W」が取引先全体で見ると利益が出ていることは数字が示していましたが、採算性の低い取引契約を解除してしまうと、固定費が増えて製品「W」の収益性が下がってしまいます。そこで田中さんは、製品「W」の全ての取引が黒字になるように、固定費の按分方法を考え出しました。
取引先 | 数量 | 価格 | 変動費単価 | 固定費単価 | 収益 | 拠出 | 利益 | マージン比率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ABC社 | 100 | $14.00 | $4.10 | $2.33 | $1,400 | $990 | $757 | 54.05% |
XYZ社 | 500 | $8.00 | $6.10 | $2.33 | $4,000 | $950 | $(217) | -5.42% |
Aさんが分析している案件の固定費は1,400ドル
さまざまな方法でコストを按分したため、田中さんは製品「W」の固定費について細かく注釈を記載し、CFOにレポートを提出しました。しかしながら、CFOからは「私は、製品ではなく、取引ごとの収益性の評価をお願いしたのです!」と言われ、やり直しを求められてしまいました。
次の一手
この例では、田中さんは不採算案件を調べ、それを正当化するための報告書を作成しました。基本的に、不採算案件は他の案件を収益化するためであったり、スケールメリットを持たせるためであったり、何らかの理由があってその取引を実施している場合が多く、その理由を明確に示しておく必要があります。
そればかりではなく、このようなお客様の例もありました。このお客様は2つの工場の間に所在し、どちらの工場からもサービスを受けることができるため、工場の生産状況によっては、送料オプションが異なる工場からサービスを受けていました。その結果、このお客様との取引にかかる送料が高くなり、採算が取れていませんでした。もし、このお客様が常に一番近い倉庫からサービスを受けていれば、送料が安定し、製品も採算が取れたのです。
では、このお客様との取引は止めるべきでしょうか。そうではなく、このお客様には送料の安い工場から配送することを受け入れていただいて、その差額をサービスで補填した方が良いかもしれません。もしくは、納期の延長を提案しても良いかもしれません。お客様がこれらの提案を受け入れていただければ、製品「W」の物流はより効率的になり、取引の収益性が向上します。
田中さんは、この製品「W」の販売戦略の強みと弱みを理解する上で何にどれくらいコストがかかっているのかを細かく把握することが非常に有益であることに気づきました。しかし、コストプラス価格が絶対だと盲目的に思いこんでいれば、経営判断の誤りに気づくことはなかったでしょう。
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